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「仕込みもの」(辰巳芳子)に学ぶ智慧


「仕込みもの」(辰巳芳子)に学ぶ智慧

台所から愛をこめて

辰巳芳子さんといのちのこと
料理研究家で随筆家の辰巳芳子さんは、料理研究家のお母様、辰巳浜子さんから家庭料理を学び、その後西洋料理の研鑽も積まれています。
お父様の介護の経験からスープの持つ力に気づき、鎌倉のご自宅などで主催の「スープの会」は「いのちのスープ」と評判をよび、希望者が何年も待機をしているほど。実は私も、そんな待機組の一人です。
近年では病院の食事にもスープを供すべく、医療者のためのスープ教室にも尽力されていたり、「よい食材を伝える会」の会長もされるなど、いのちをつなぐ活動を精力的にされている方です。
今回ご紹介する「仕込みもの」は、そんな辰巳芳子さん流の保存食の集大成。保存食の作り方、使う容器や保存法はもちろん、自然やいのちとのかかわりまで踏み込んで書かれた、奥深く、味わい深い1冊です。
辰巳さんの深い想いは巻頭の言葉からも。以下にまず、その言葉をご紹介しますね。

「初版から休憩時代を合わせて30年。
本のありさまに比し、私と仕込みもののとのかかわりに、休みなどございません。
何故でしょう。
旬がまわりに来て、ものたちが差し招くから、
黙っていないからです。

私たちの仕事は、もの云わぬ「もの」に対する問いかけから始まります。
ものは、人の勉強、施行に応じて、自分をあらわにしてくれます。
応えたくてたまらぬようです。

私はものの、無私、無心を愛しています。
こうした働きは、生きとし生きるものと、一つになる道を整えるでありましょうか。

料理の神髄、仕込みものの深意が、ここに帰着することを願っています」。
(「辰巳芳子「仕込みもの」P5より引用」)

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季節を感じる 旬を知る
一年中いろいろな野菜委がスーパーにあふれ、私たちは昔の人のように野菜や魚などいのちをいただくものたちの旬を知らないようになりました。
「旬を食べよう」と、いろいろなところで耳にしたことはあると思いますが、その意味、ご存知ですか?
漢字で「旬」は、もともと「10日間」を意味する言葉で、「上旬」「中旬」「下旬」という言葉も1か月の30日を10日ずつに分けて表現するために生まれた言葉です。食べ物の「旬」も、本来はその食材が最も良い時期の「10日間」を意味しているのです。

本の中にこんな言葉があります。

「人は自然を離れると、予想以上のものを失います。それは、人間が自然そのものであるからでしょう」。
(辰巳芳子「仕込みもの」p138)

仕込みものをするには、素材の旬を知る必要があります。旬は出盛り期とも言われ市場によく出回る時期でもあります。その時期を知り、その時期の新鮮な美味しさや味わいを時間をかけてぎゅっ、と仕込む。
仕込みものがおいしいのは、いのちの力と、愛情と、時間がぎゅっと詰め込まれて調和しているから、なのかもしれません。

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台所は自然への窓
電子レンジでチンしたり、冷凍食品を使えば確かに時間は短縮できて簡単かもしれません。
でも本当にそれでいいのでしょうか?
もともと食べ物をいただくことは、ほかのいのちをいただくということ。いのちをいただく手順を簡略化することが良いことなのか、私は疑問を持っています。
とはいえ、忙しい毎日の中で、毎日手の込んだものを作る必要はありません。たとえば野菜を蒸すときにはレンジではなく蒸籠(せいろ)を使ってみたり。味噌やしょうゆなどの調味料は本物を使うようにしてみたり。できることから変えてみては。きっと気がつけば、いつしかいろいろな変化が出てくると思います。
やっぱり台所は家の中に開かれた自然への窓だと思うから、自然を感じて、楽しんで、感謝して。季節や旬をとり入れて、作ったり食べたりしたほうが愛ある美味しいものができるんじゃないかなぁと思うのです。
で、そんな忙しい日々に、活躍をするのが仕込みもの。仕込むときには手間暇惜しまずに、作っておくと、時満ちて時期が来た時においしくなって、毎日の食事を支えてくれるようになるのです。こんな楽しいこと、やらないなんてもったいない。
最近はまた、ご自宅で手前味噌を仕込む方も増えてきて、仕込み用のキットなども販売されています。初めてで不安だなぁという方には、1月2月の寒仕込みの時期にいろいろなところでワークショップが開催されるので参加してみるのもお勧めです。
わが家では、毎年杉樽で10㎏程、味噌を仕込みます。保存食は実は防災の備蓄にも役立つもの。いろいろなものを買い込んで、使わずに無駄にしてしまうよりも、少し手間をかけて仕込みものをしておくと、いざというときにもいのちをつなぐ助けになります。たとえば、仕込んだ味噌と、とろろ昆布などの乾物とお湯さえあれば、お味噌汁が作れます。お米を炊ければ味噌をつけて焼きおにぎりを作ったりすることも。
先人の知恵は本当に素晴らしいものですね。

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 「おいしくなあれ」と愛をこめて
「真に仕込みものらしい仕込みものを仕上げるためには、ものがよい方向へ向かうように、ものに心を添わせ、『よくなれ、よくなれ』と願い働くのです」。
(辰巳芳子「仕込みもの」p182)

「いただきます」、「ごちそうさま」という言葉がある日本の食文化は本当に素敵だなぁといつも思います。いのちのおいしさを引き出すコツは、やっぱり祈りや愛情だと思うから。
もの言わぬ食材たちも、葉の色や皮のはり、つやなどさまざまな方法から自分の状態を伝えてきてくれます。
そのもの言わぬ声に耳を澄ませて、「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ」と念じながら愛をこめて仕込む、仕込みもの。ぜひ、一度手に取って読んで、できそうなものからチャレンジしてみてください。
台所から家族や食材にたくさんの愛をこめて。


水野 佳

ヨガとくらしのサロン LINGKARANG(リンカラン)主催 水野 佳 自然や季節を感じる暮らしを提案。親子で自然にふれる「森の親子ピクニック」や、味噌や醤油の仕込みWS、お寺でのヨガクラスなどをのんびり開催中。わんぱく2歳児の母。